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前回、選曲についての記事を書きました。
わたしは小さなころから「新しい曲」が大好きでした。
コンサートに行ったら、身近なお姉さんが弾いている曲が弾きたいと言い。
新しいCDを聴いたら、その中の知らなかった曲を弾きたいと言い。
練習している曲をほったらかしては、好きな曲を勝手に弾いていました。
そんなわたくしですが、これはもはや熱烈な恋だろうというほど曲にのめりこんだ体験が数度あります。
そんなことを急に思い出したので、書いてみようと思います。
あれは高校2年生の夏のことでした。
そう、音楽への真っすぐな情熱を持ち、人生の意味について問いかけていた高校時代。
ある日、自宅で流れていたラジオから、重苦しく、情緒深く、ロマンティックな弦楽器とピアノの旋律がきこえてきました。
心がザワザワしました。
どう考えても、誰の曲かわかりませんでした。
ブラームスのような重さを感じるものの、音そのものは重厚じゃない。
ロマンティックな旋律だけど、きっとショパンじゃない。
気になって気になって。
でもその日はコンクールかなにかで、ラジオの曲の途中で家を出なければならなかったんです。
父に、「お父さん、曲名と作曲者名、ゼッタイメモしといてね!」とお願いして出発しました。
帰宅したら、父のメモが。
「ショーソン ピアノトリオ(三重奏曲) ト短調」
彼の名前はこのときに初めて知りました。
エルネスト・ショーソン(1855−1899)
フランスの作曲家。パリ音楽院にてマスネに、その後フランクに師事。抒情性ある作風が特徴。代表作にヴァイオリンとオーケストラのための「詩曲」など。
それから学校の図書室で曲を調べようとしましたが、なかなか資料がありません。
音源を注文して、聴いたのがこのボザール・トリオのCDでした。
(ラヴェルのピアノ三重奏曲とのカップリングです)
ショーソンの三重奏曲は、フランクのピアノ五重奏曲に影響を受けたと書かれていました。
ドイツ音楽とはまた違った空気感のある中間楽章や、これまた「ロマン」がこぼれ落ちるような終楽章も素敵でした。
でも、なんといっても第1楽章。
ピアノの重暗い序奏から始まり、チェロとヴァイオリンが泣いているかのような旋律。
序奏から一転、激しい主張が飛び交う第1主題。
夢見るように甘美的な第2主題。
2つの主題が、循環形式でめぐっていきます(フランクから影響を受けた形式)。
とにかくすべてが「美しくてカッコイイ」!とツボでした。
高校生のわたしたちにとって、室内楽をホールで弾ける機会なんてそうそうありませんでしたが、1つだけチャンスがありました。
当時わたしが通っていた音楽高校では秋の定期演奏会というものが行われていて、オーディションで選抜された室内楽グループが2組出演できることになっていたのです。
会場は、そのころオープンしたばかりの京都コンサートホール。
そこでヴァイオリンとチェロの同級生を誘って、ショーソンのピアノ三重奏曲、第1楽章を弾くことにしました。
楽譜は海外から取り寄せ、なんと1ヶ月待ち。
いま調べてみたら、やはり4週間かかるようですね。マイナーなのは変わらずか・・・(Amazonに至っては、見つかりませんでした)
朝も昼も夜も練習しました。3人で議論し、アナリーゼ(和声・形式分析)も細かくしながら、一生懸命情熱をぶつけました。
そして念願かなってオーディションに合格、3年生の秋のコンサートで弾けることになったのです!
コンサートの日がくるのがほんとうに楽しみでした。
そして当日の嬉しさ、気持ちよさは忘れられません。
最後の一音を弾き終えたときの充実感と大きな拍手をいただいたときの嬉しさは、今でも思い出せます。
高校時代の大切な思い出の1ページです。
あれから約20年近く経ちます。
またいつか機会があれば、こんどは全楽章弾いてみたいです(どなたか一緒に弾きませんか?)。
※余談ですが、この曲の名称を約20年ぶりに書いたのですが、なんとなく作品番号を覚えていた自分にちょっと感心しています(笑)。
さてもう1曲、これまでのわたしの人生を語る上でぜったいに外せない曲がこちらです。
大学時代、ずーーーーっと恋していた曲。
大学1年生、1人暮らしを始めたわたしは毎日クラシックのCDを聴きまくっていました。
プロコフィエフの数曲のピアノソナタを気に入っていたので、協奏曲も全部聴いてみよう!と、全曲CDを買いました。
そのときに選んだのが、こちらのCDです。
ゲルギエフは知っていましたが、トラーゼというピアニストはこのCDで初めて知りました。
難解な曲ばかりでしたので、はじめはなんとなく5曲を繰り返し再生していたのですが、そのうち
第2番の深い沼のような世界に、誘われる気がしてきたのです。
気づけば第2番だけを繰り返し、繰り返し聴いていました。
トラーゼが書いたCDのブックレットの解説によると、この第2番はプロコフィエフが、自死した親友を想って書いた曲とのこと。
トラーゼの演奏はやや遅めのテンポで、決して情に溺れてはいないのですが、ものすごく湿り気があり、鬱々とした青ざめた情熱と、彼自身が(もしかしたら作曲者も)コントロールできていないかのような爆発力がありました。
大学に入って1〜2年は、楽しいこともたくさんあったのですが、どこかで得体のしれない不安感や孤独感と闘っていたように思います。
そんなころに出会ったこの曲は、わたしの中で大きな憧れでもあり、心の中の秘密の親友のような存在となりました。
それから、わたしの一番の夢は、「いつかこの曲をオーケストラと演奏したい」となりました。
毎日リピート再生し、友人が遊びに来たら「ねぇちょっと聴いて、この曲めちゃいいやろ?」と無理やり聴かせ(笑)、
携帯の待受音には第2楽章のパッセージを打ち込んでいました(携帯の着メロを電子音で入力して作れたんですよ!懐かしいですね・・・)
プロコフィエフ : ピアノ協奏曲 第2番 Op.16/ブージー & ホークス社/2台ピアノ用編曲
オーケストラとの共演さえ、当時のわたしには雲の上の話でした。
それに加えて、この曲はけっこうマイナーな存在だったのです。
近年はコンクールの本選曲などに第2番も入っていますが、当時はあまり入っていなかったし、学内のオーディションでも、わたしが知る限り、弾いている先輩や後輩はいませんでした。
弾けるあてもないのに、譜読みに1回通すのに2〜3時間かかってしまうこの曲を、暇さえあれば弾いていました。
そんな中、尊敬する門下の先輩が、「サイリエ〜、伴奏のお礼に!」とわたしにくださったスコア。
これまた、海外から数週間かけて取り寄せてくださったんです。
「いつかオケと弾いてね!」というメッセージとともに。
感激しました。一生忘れません。
それから、ショパンの第1番、第2番、ラフマニノフの第2番の協奏曲をオーケストラと演奏させて頂く機会に恵まれましたが、プロコフィエフ第2番はまだ現実のものとはなりませんでした。
ウクライナでピアノ協奏曲を弾かせていただくことになったときも、この曲をリクエストしたのですがオーケストラの都合により別の曲になりました。
勤務していた音楽教育関係の法人を退職し、よし、リサイタルをするぞ!というころに見つけた、日本演奏連盟のオーディション。
好きな協奏曲でオーディションを受け、合格したらプロオーケストラと共演できる!というものでした。
(※細かく書くと、このオーディションのことは前から知っていたのですが、大阪(関西)でも行われるようになったのがこの頃だったのです。)
リサイタルでもプロコフィエフのソナタ(第8番)を予定していたこともあり、それまで以上に「プロコ漬け」の生活が始まりました。
オーディションでは、なぜかいきなり第3楽章をほぼ全曲(乾いた滑稽な和音とリズムがひたすら9分ほど続く間奏曲)→第4楽章の前半ほんの少し→第2楽章に戻る、というまさかの演奏箇所指定。
長大なカデンツをもつ第1楽章は1音も弾きませんでした。
「聴かせどころが全然弾けなかった」
「ゼッタイあかん」
とがっかりして帰ったのですが、数日後になぜか合格の通知が!
玄関で母と封書を開けたのですが、喜びの悲鳴を上げて飛び上がりました。
それは実に、はじめにこの曲を聴き、舞台で弾く日を夢見てから9年ほど後のことでした。
嬉しすぎて、とにかく本番まで絶対に怪我などして欠場にならないよう、それを一番に考えて当日まで幸せな練習期間を過ごしました。
すべての小節、すべての旋律、リズム、和声を奏することが喜ばしくてたまりませんでした。
本番を終えたときには、正直な気持ち、
と一瞬思ってしまったほどです。
そのくらい、大きな夢だったんです。
※しばらくたったら現実に戻って、またピアノを弾いていましたが。
ショーソンとプロコフィエフ。
わたしの中で大きな存在だった2曲について書きました。
そういえば2曲ともト短調で、暗〜くて、美しくて、共通点がある気がします。
そのころの自分が一番求めていた世界があったのかもしれません。
このほかにも、大好きな曲や心に強く残った曲はたくさんあります。
でも、ここに書いた2曲は特別です。
青春や初恋が二度とやってこないように、このような曲との出会いはもう一生来ないのかな、と思って寂しくなったりすることもあります。
でも、自分の気持ちが音楽に対してフレッシュであれば、きっとまた素敵な出会いがある。
そう思ったりもします。
あなたの大切な曲は、なんですか?
〜こんな記事もあります〜
バレエ「シンデレラ」の舞台と「シンデレラからの6つの小品 Op.102」(プロコフィエフ)
「あいのねコンサート〜地球のかたちを哲学する〜」を聴きに行きました
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