こんにちは。崔 理英(さい りえ)です。
ときどき、特別レッスンや単発レッスンで中学生や小学生のレッスンを行うことがあります。
それぞれに素敵なところや具体的な課題がありますが、よく気になることがあります。
それは、
- 「どう弾きたいか」「どんな音や世界観で弾きたいか」をどのくらい自分の中に持っているか?
ということ。
言いかえれば
- 音・演奏への意志
- 理想のイメージ
「ここはこう弾きたい!」というイメージをしっかり持って、それに向かって練習することで
- 曲への思いが高まり、メリハリ、意志のある演奏になる。
- 出したい音や表現がはっきりとするため、練習の道筋が具体的になる(現時点で自分が出している音と理想に浮かべた音との違いから、具体的な練習ができる)。
- なんとなく音を出して弾くことが少なくなり、人に伝わる表現になる。説得力が増す。
と、演奏が変わってきます。
では、そのイメージとはどのように作る、浮かべるのでしょうか?
この記事では、演奏へのイメージを高める具体的な5つの方法をご紹介します。
もくじ
ピアノの演奏に絶対必要!「理想のイメージ」は勝手に浮かぶの?
「こんな曲だと思う」「こんな音で弾きたい」というイメージが大切、というのはおそらく多くの方がわかっていることだと思います。
では、イメージはどこから来るのでしょうか?
探せば勝手に浮かんでくるのでしょうか?
もも
もも
ということはありませんか?
イメージを作る、浮かべることが苦手・・・
実はわたしも、小さいころ「イメージを作って、人に話す」というのが苦手でした。
その曲の情景や感情など、あまり浮かんでこないのです。
先生から楽譜の一部分について「ここはどんなところだと思う?」と尋ねられ、う〜んと考えて無理やりひねり出すこともありました。
そのため、演奏しても音色が少なく、表情も薄くなってしまいます。
さいりえ
と、自分なりに考えて試していく中で「イメージ」に必要なことが何か、少しずつ見えてきました。
イメージを浮かべることが大の苦手だったわたしも、これから書く5つのポイントを意識していくことで曲へのイメージについて考えやすくなりました。
また、「わからない!」という曲に対しても自分なりにアプローチしていくことが増えました。
イメージを浮かべるのが苦手、という人はぜひお読みください。
必要なことその1:経験と実感
まず、イメージに必要なことは「経験」や「実感」です。
これは、演奏の経験、舞台経験、という意味ではなく、もっと広い意味での「人生の経験」です。
イメージとは自由に浮かべて良いものと思われますが、自分の頭の中にまったくないこと、「知らない」ことは浮かべようがありません。(かなり感性の鋭い人なら別かもしれませんが)
- やさしい気持ちになったことがある。
- 理不尽なことに怒りをかかえたことがある。
- この道は無限に広がっているのではないか、という不思議な感覚になったことがある。
そんな一つ一つの経験、実感があなたの音楽に生きてきます。
イメージとはただ勝手に湧いてくるわけではなく、知識や経験、実感によるものが大きい。知らない、聞いたこともないものはイメージしようがないから。演奏の経験だけではなくて、どんな気持ちになったことがある、どんな風景の広がりを感じたことがある、などなど…そこから想像力がふくらむので。
— 崔理英 / Rie Sai (@smomopiano) 2017年8月5日
仮に自分に完璧なタッチやテクニックがあれば、どんな風に演奏したいだろうか?どんなものを表現したいだろうか?
願わなければ叶わない。目標、イメージを明確に。音も同じなんですね。思ってもいない、描いてもいない音は出ませんし、偶然出たとしても気づかずに通り過ぎてしまうかもしれません。
— 崔理英 / Rie Sai (@smomopiano) 2012年10月27日
全身で、たくさん経験しよう!
- 五感でたくさん経験する
- いろんな感情を経験する
- 多様な人と接する中でさまざまな立場の人の考えや思い、価値観に触れる
このようなことによって、さまざまな景色、香り、音、感触、そして感情が自分に近いものになってきます。
必要なことその2:知識
イメージとはあまり関係ないと思われがちですが、実は密接に関わるのが「知識」です。
とくにクラシック音楽を学び演奏する上では不可欠でしょう。
- 音楽や世界の歴史
- 楽器のこと
- 作曲家のこと
- 音楽理論や和声の知識・・・
知っているのと知らないのとでは全然違います。
知識にもとづくイメージと、そうでないイメージのちがい
たとえば、バッハのある作品に対して「悲しみ」「悲痛」というイメージがあったとして、
・まったく知らないで、ショパンの「悲しい感情」と同じように思って弾く
選ぶタッチや音色、テンポ感、雰囲気がガラッと変わってしまいます。
イメージには、知識の裏づけが必要なのです。
知識も大切で、曲や時代の背景、様式やいろんな楽器の音など…を知っているのと知らないのとでは、「こう弾きたい」のイメージの内容が全然違ったものになります。
イメージが薄かったり浮かばなかったりする場合はそうしたヒントをお伝えします。わたしももっと勉強せねば(o^^o)— 崔理英 / Rie Sai (@smomopiano) 2017年8月5日
知識があればイメージを浮かべることを助けてくれる
・この曲はベートーヴェンの耳が聴こえなくなった頃に書かれたらしい。
・この和音は次の和音に向けて緊張感を高めていく役割があるらしい。
そのようなことをたくさん知っていると、「どんな曲なのかな?」「何を伝えたい曲なのかな?」とアプローチしやすくなります。
ぜひ、いろいろな本を読んだり、同じ作曲家の書いた別の作品を聴いたり、オーケストラやオペラの演奏会に足を運んだりして知識を広げ、深めてください。
必要なことその3:たくさん演奏を「聴く」
ひとの演奏をたくさん聴くことも、イメージ作りの助けになります。
むかしからある録音を聴く
たとえばラフマニノフやバルトークなどは自演の録音も残っていますし、プロコフィエフと実際に親交があったリヒテルの演奏でピアノソナタを聴くこともできます。
また、巨匠と呼ばれたピアニストやヴァイオリニスト、指揮者の演奏を聴くと、いまの自分には想像が及ばないような世界を感じることができます。
自分が描いていたイメージとは違い、修正できることもあります。
ホールで生の音を聴く
音色や雰囲気に関するイメージを高めるには、ホールで音を聴くのが一番です。
「ピアノから、こんなにも豊かで立体的な音色が出るのか!」
「こんなにも繊細で美しい pp (ピアニッシモ) の音がこの世に存在するのか・・・」
と実感し、自分にもこんな音が出したい!と思ってイメージを書き換える、理想をもっと高めていくことはよくあります。
悩んでいるときこそ、良い演奏会に足を運んでいきたいものです。
必要なことその4:下地があっての「想像力」
ここまで読まれて、イメージできることは「知っていること」「体験したことがあること」だけなのか?
と思う方がおられるかもしれません。
本当にそうなのでしょうか?
答えは No です。
クラシック音楽の作品は、人間の壮大な人生、歴史、感情から 超自然的な世界観まで
現代に生きるひとりの人間には想像しえないことを表現している曲がたくさんあります。
その場合、知らないことでも想像力を働かせるしかありません。
さらなる「想像力」
- 宮廷で音楽が奏でられていた時代
- 革命や戦争の大きな渦の中で音楽が生まれた時代
- 壮絶な人生を送ったひとりの作曲家やその周りの人たちの思い・・・
10代のお子さんには想像したこともない世界があるでしょうし、30代のわたしにも経験しえない、想像できないことがたくさんあります。
自分が想像できることから「さらなる想像力」「共感力」をもって、作品・作曲家へ寄り添っていく姿勢が必要です。
これまでに挙げた「経験」や「知識」は、それを助けてくれます。
想像もできないほど大きなものや深いものを表現しなければならないこともあるけど、それでも想像するためのある程度の材料は自分の中に必要。人生経験の多い方の音色や表情がなんともいえず深く魅力的なのはそういうところもあるだろうな。
— 崔理英 / Rie Sai (@smomopiano) 2017年8月5日
必要なことその5:「言語化」できると、より深まる
自分の中にだんだんイメージが膨らんだとして、それをはっきりと言語化できるとより明確になります。
たとえば、「悲しそう」と感じたとき。
- 何かを失った悲しみなのか?
- 自分の病や将来に対する悲しみなのか?
- 孤独感から来る悲しみなのか?
- 願いが聞き入れられない、不条理なことに対する怒りの後の悲しみなのか?
- わけもなく不安で悲しいのか?
- 美しいものに触れて、ふっとやってきた悲しみなのか?
たくさんの奥行きある「悲しみ」があります。
どんどん掘り下げて問い、言葉にできると、さらに理想がはっきりしてきます。
本を読んだり、日記や文章を書いたりすることはその助けになります。
わたしの尊敬しているピアニストさんは、本当にイメージが奥深く、そして明確です。
「ここまで、曲について思いをはせ、一つ一つの音に強い思いと理想をもつものなのか!」と、いつも感銘を受け、それを目標にしています。
まとめ
よく聞くことばだけれど、ぼんやりとしている「イメージ」について、5つのポイントを書きました。
- 経験と実感
- 知識
- 聴くこと
- さらなる想像力
- 言語化する力
イメージ、理想を高めて、意志をもって演奏できますように!
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